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私は数年前から渓流の自然魚はキャッチ&リリースすることにしている。 妻の入院がきっかけで始めた一種の願掛けみたいなものでたいした理屈はない。 しかしやってみると釣りという行為だけに専念できて結構具合がいい。 しかしある事情で生涯しないと誓った渓流魚のキャッチ&キルを一回だけすることになった。


妻の祖母が、去年まで元気だったのに急に具合が悪くなり起き上がれなくなった。 医者の診断ではあと数ヶ月の余命らしい。その祖母が実家に帰った私の妻に、「アメゴをまだ食べたことがないので、死ぬまでに一度食べたい」と言ったそうだ。高知県では川魚はウナギと鮎以外は普通食べない。アマ ゴは今なら養殖物が比較的簡単に手に入るが、 昔は山奥に自分で釣りに行く以外得る手段がない結構珍しい魚だった。 実家に帰った私は妻から、もし釣れたら1尾で良いから持って帰ってくれないかと頼まれた。私は二つ返事で引き受け四万十川上流部に出かけた。

妻の願いが叶ったか、最初のライズで18cmのアマゴが取れた。 魚籠は持っていないので、ビニール袋に入れベストのポケットに放り込んだ。 その後20cmの立派なアマゴが釣れた。できるだけ大きくおいしそうなのを食べさせてあげたい。 でも最初に釣ったアマゴはとっくに死んでいる。どうしようかとしばらく迷ったあげく、このアマゴも持ち帰り2尾食べてもらうことにした。 まあこの辺が釣り師根性だろう。欲が出ると、もう少し大きいの、家族の分、お隣さんの分と、際限がなくなる。 ベストのポケットのアマゴが腐らないようにすぐに釣りを切り上げ、帰り道のコンビニで氷を買ってクーラーボックスに入れた。 これって結構面倒くさい。やはりC&Rの方が釣りに専念できる。


釣れたアマゴの腹を割くと胃の中はテレストリアルでいっぱいだった。全体に強塩をして1時間置く。 その後腹の部分を軽く洗い背だけに塩を振った。こうすると薄い腹身の部分だけ塩辛くならず均等な塩味になる。 しばらく塩をなじませてから炭火で焼いた。


おばあさんはたいそう喜んでくれた。塩加減も丁度だったそうだ。95才を過ぎても元気で頭が良く、 みんなが百才まで生きると思っていたおばあさんだが、今はやせこけ体の骨が浮いて見える。 寝たきりの生活を送っているその姿は痛々しくて涙が出そうになる。


そのおばあさんが、私の釣ったアマゴを喜んで食べてくれた

こんなことで、こんなに喜んでもらえるのなら

キャッチ&キルも悪くない。

おばあさんはその2ヵ月後、入院を拒否し、自宅で静かに息を引き取った。