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トラウトはなぜアトラクターフライに反応する?

トラウトが昆虫の大きさ、色、形を忠実に再現したリアルなイミテーションフライを補食するのは解るのだが、昆虫や小魚とは似ても似つか ぬ派手なアトラクターに飛びつくのはどうしてだろう? 一体何に反応しているのだろう? フライフィッシャーはおそらく経験的に派手な色、光、動き、エッ グフライやMSCニンフ等のモワッとしたファジーな質感に反応していると考えるだろう。これは私の仮説なのだが、このことをエソロジー(比較行動学)の面 から考えてみると面白くなる。


エソロジーとは

エソロジーとは、色々な動物の行動を比較することにより、行動の意味や本質を探ろうとする学問だ。解りやすく言ってしまえば本能ってや つの仕組みとかルーツを検証する学問だ。エソロジーでは、(人間も含む)動物の行動パターンの一部は、生まれながらにプログラムされていて、特定の刺激 (リリーサーと呼ぶ)がきっかけで実行されると考える。この仕組みをIRM(生得的解発機構:Innante Releaser Mechanism)などと難しい呼び方をすることもある。たとえばヒョウモンチョウというチョウは、繁殖のため、羽ばたく同種のチョウに反応して寄って くるのだが、これは本物でなくても、片方を黒、反対をオレンジに塗った円筒を回転させても同じ反応をする。この場合、黒とオレンジのフラッシュがリリー サーということになる。注目するのは、チョウは実体ではなく、黒とオレンジのフラッシュというシンボリックな刺激に反応したというだ。


フライにはリリーサーの要素が含まれるのでは?

このことをフライに反応するトラウトに当てはめることはできないだろうか? 猫が本物のネズミでなくても、ガサガサする音、動く物、毛 糸玉に補食行動を示すように、トラウトにも補食行動を起こすリリーサーは存在しないだろうか? もしあるとすれば、リアルなイミテーションフライを作らな くてもリリーサーだけを強調して他を省略したフライを作れば良いことになる。これを人間でたとえてみる。たとえば私達男は一定の年頃になると、きれいな (特に裸の)おねーさんにたいへん鋭く反応する。そしてそれは、本物でなくても雑誌のグラビア写真でも引き起こされる。つまり、紙に印刷されたイミテー ションに反応している訳だ。さらにはイメージがもっと省略化されたコミックやアニメに出てくる美少女の画像にも同じ様な反応をする。


アトラクターはリリーサーを強調したフライ?

この場合写真をリアルイミテーション、コミックやアニメをアトラクターと考えることはできないだろうか? 写真のようにイメージを忠実 に再現しなくても、かわいさとか、セクシーさのみを強調した省略化された情報でも、ファンクラブを作り夢中になるおにーさんがいるくらいの反応がある。私 はフライのイミテーションとアトラクターの関係はこのようなものではないかと考えている。フライを本物と全く同じように巻くことは不可能でも、魚がえさと 感じ補食行動の引き金となるリリーサーに当たる要素がもしあるとすれば、その部分のみを強調したフライを巻くことは可能かもしれない。ひょっとすると本物 の虫より、魚が魅力的に感じるフライができるかもしれない。


トラウトが見たフライのイメージ

トラウトの捉える虫のイメージは人間の捉えているイメージとは異なると思う。人間も含め動物は、目で見える(網膜に写る)イメージを全 て把握しているわけでない。網膜からの信号は、神経を伝わり脳の中で再構成されるまでに不要なものはほとんど捨てられ、省略化されたシンボリックなイメー ジとして認識される。脳でイメージされる情報とフィルタリングされ捨てられる情報は種によりそれぞれ異なるため、同じ物を見ても認識されるイメージは種に よって異なるようだ。このことを仏教哲学では「色即是空」→色(目で見えるもの)は空(実体がない)と説く。 あれ?何かフライフィッシングと違う方向 へ。

私達フライフィッシャーの持つフライへの美的感覚と、トラウトに補食行動を起こさせるフライは異なると考えるべきだろう。そしてもしト ラウトにアピールするフライを作りたかったら、フィッシングスタイル、美的感覚、マテリアルへのこだわり等の人間の自己満足ではなく、試行錯誤で得られた 実績を謙虚に積み上げていくべきだと思う。


 中途半端なイミテーションはマ イナス効果?

人間の思いこみによる、中途半端なイミテーションはかえってマイナス効果になるかもしれない。たとえば、かわいいコミックやアニメの キャラクターを、よりリアルにそのままのプロポーションで実寸3D化すれば、スイカほどある頭に、直径5cmはある牛のように大きな目玉の、見ただけで ぎょっとする容姿になるだろう。子供にせがまれて行ったセーラムーンショーで、かわいいセーラー服のおねーさんを密かに期待していたら、着ぐるみが出てき てがっかりするおとーさんの心境を想像してみよう。

右画像:5才の娘がバービー人形にセーラーマーキュリーの衣装を着せて遊んでいるのを見て笑ってしまった。

トラウトはフライが本物でないことを判っているのでは?

管理釣り場で、エッグフライの周りを何度もうろうろして、くわえたり吐き出したりを繰り返すニジマスを見ているとそう感じることがあ る。フライで釣れるトラウトって、きれいなおねーさんに誘われたら、だめだと判っていても理性がぶっ飛んでしまう、私達 「わかっちゃいるけどやめられな い」 男どもと同じように、エサではないと判っていても、フライの周りを何度も行ったり来たりしたあげく、逆らえない衝動で思わず食いついてしまい、「く やしい〜!」と暴れながら上がってくるけっこうアホなやつではないだろうか? そう考えるとなんか親近感がわいてきて、「アホやな〜、でも俺とおんなじ や」 と思わずリリースしたくなる。